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ルビーのきりん

ルビーのきりん

愛猫に助けられた話

☆愛猫に助けられた話☆

 それは、社会人になって初めて一人暮らしを始めたときの話。
 当時、まだワンルームマンションなんて手が出なくて、風呂なしの5畳一間のアパートに住んでいました。
 奇妙なことに、その部屋はL字形にくぼんでいて、そのくぼみは、下に井戸があるためだったのです。
 「井戸って、ちょっとまずいんじゃな~い?」と友人に冗談半分で心配されましたが、日当たりもいいし静かで、私は結構気に入っていました。
 別に何事もなく過ぎていったのです。ただ一度を除いては…。
 それは、ある夜のことでした。眠っていたのにふと目が覚めたとき、誰か人の気配がしました。それは、私の布団の足の方に立っているようでした。男の人のようでした。えっと思った次の瞬間、いきなり肩をつかまれ、すごい力で揺すぶられたのです。うわぁっと恐怖の波が押し寄せてきて、声も出せませんでした。それでも振り絞って出た声は、自分の声とも思えないほど…。もうだめだ!と思ったとき、足下から別の気配、ぬくもりを感じたんです。
 それは、高校時代飼っていた猫の気配でした。学校帰りに拾ってきて、当時ちょっと不登校気味だった私が心の支えにしていた猫です。毎晩一緒に寝ていました。数年後、病気であっけなく死んでしまいましたが…。
 飼っていた頃、いつも足下で丸くなって寝ていましたが、寒いときなどはそおっと布団の中に入ってきて、私の腕に頭を乗せて眠ることもありました。
 猫は、ちょうどその時のように、おずおずとゆっくり私の肩の方へやってきました。と、同時に揺さぶられていた力は消え、見知らぬ男の人の気配も消えました。
 猫の気配は、しばらく私の肩にありました。ちょうど生きているときのように。
 そして、しばらくして私の気持ちが落ち着いた頃、猫は布団をしまってある押入の方へ歩いて行ってしまいました。
 朝になり、その押入をあけると、使っていない毛布の上が、ちょうど猫の丸く寝ている形にくぼんでいました。そして、そこにそっと手を当てると、まだほんのり暖かかったのです。
 「あの子が、助けに来てくれたんだ…」
 はっきり、そう感じました。
 変な気配におそわれることは、その後二度とありませんでした。そして、猫がやって来ることも…。

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